足と靴の話

意外と知らない足と靴の知識をご紹介します。

# ドイツ靴事情と整形靴技術者

学校長インタビュー

学校長ヘルベルト・テュルク先生インタビュー

ヘルベルト・テュルク先生 Guten Tag!
フスウントシューインスティテュート(以下FSI)学校長を務めさせていただいております、ヘルベルト・テュルクです。
今回は私の母国である、ドイツの靴事情と私の思いをお話しさせていただきます。
私が整形靴業界に入ったのは今から約40年前のことです。
父(FSI顧問 カール・テュルク氏)が整形靴を生業としていたものですから、自然とこの道に入りました。 当時は整形靴が扱う領域も下肢のみを対象としたものでした。足の研究が進んだ現代では、首や、腰のゆがみが下肢に影響することが明らかになり、扱う領域が全身となりました。

もう一つ、これはあまりよくない変化かもしれませんが、現代人の運動時間と質の低下があげられます。交通手段や交通網、コミュニケーション手段が限られていた40年前と比べ、今は、歩くことも少なくなり、パソコンの前でクリック一つで済んでしまう仕事も少なくありません。食生活の変化もありますね。
これらのことが要因となって、ドイツでも糖尿病患者が増えています。ドイツ人の10人に1人は糖尿病にかかっているといわれています。予備群も含めると相当な数になるでしょう。

糖尿病で怖いのは合併症です。
代表的なところで、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害等があります。
私はドイツでテュルク・フスバイタルセンターを経営しており、これまで幾人もの糖尿病患者の足を見てきました。神経障害で足の感覚が知覚鈍麻した状態ですので、靴に何か入っていても気づきにくくなっています。靴を見させてもらって、中からコインが出てくるなんてこともよくあります。一番驚いたのは、カギの束が出てきたことです。この方法なら家の鍵を落としてなくすなんてことはなくなりますね。
このように、神経障害が進んでしまうと、それだけ大きなものをずっと踏んでいても気づけなくなります。私たちは靴やインソールを製作するだけでなく、そのような患者さんに足と靴の大切さを伝えなければなりません。そのためにも、我々整形靴技術者も、もっと内科などのドクターとの連携が今以上に重要になってくるでしょう。

靴の文化という面でドイツには長い歴史があります。
多くの町にシューマイスターのお店があり、オーダーシューズを楽しんでします。
また、赤ん坊のころから足の検診が行われ、何か変形への兆しが見られるとすぐに対応できるシステムが出来上がっています。加えて、年齢に限らず、足の外来診察が無料なところが多く、何か気になるところがあればすぐにチェックできる体制になっています。
しかし、悲しいことにドイツでも、靴の履き方が悪い人が増えてきています。
ある統計によりますと、ドイツ人の2人に1人は足に痛みを感じているそうです。その90%が前足部の痛み、特に拇指の痛みだということです。日本では外反母趾に悩んでいる方が非常に多いですが、ドイツでもご婦人を中心に同じ悩みを抱える人が多くいらっしゃいます。また、なんと70%の人が脚長差があるそうです。もちろん、無視できる範囲のものもあるかと思います。私の工房でも、脚長差の方への対応を多くあり、最大で17センチの方へ靴をお作りしたことがあります。

40年間、整形靴に携わってきましたが、素材やテクニックの進化はありますが、基礎となる考え方自体は変わっていません。整形外科のシンボルとなっている木。3点矯正によって徐々に正常に近づけていくというものです。先ほども述べましたが、私たちの仕事は靴やインソールを作るだけではありません。普段の足と靴のケア、定期的なフットケア、歩き方などトータルにアドバイスすることが私たち、整形靴技術者の役目なのです。


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